2008年4月26日 私が会長をしている形の文化会総会で、シェイクススピア学者の藤田実さん(阪大名誉教授)の講演を聴きました。シェイクスピアはロンドンにあったグローブ座の座付き作者であったのですが、グローブ座は当初はジョン・ディーの構想のもとに作られ、シェイクスピア時代のものはそれを改築した2代目ということです。いまあるグローブ座は、したがって3代目になるのでしょう。
  藤田さんは、イエーツの『世界劇場』(晶文社)の翻訳者ですから、グローブつまり地球は同時に天球を写し、グローブ座が世界を写す人生劇場である、という私にとっても、さもあらん、ということになっていると思いましたら、イギリス人の大方の研究者は、このイエーツの見解に与しないということで、驚きました。発生的に、演劇は宿屋の中庭で生まれた、In-Yard Theoy が強いのだそうです。しかし、グローブ座には舞台正面に2本の列柱があり、これはどう考えても、ギリシア・ローマ神殿由来で、また円形劇場というのもギリシア・ローマ劇場の形状にそっくりです。その影響を、イギリス人は、がんとして認めないのだそうです。
   私はロンドンには何回も行ってますが、演劇やオペラのメッカで、「キャッツ」も「オペラ座の怪人」もこの発祥の地で見たのが自慢です。グローブ座は東京にも復元されていますが、この外形は当時の銅版画などでわかっていても、内部の記録は残っていません。
  そこで同時代のスワン劇場の内部スケッチが唯一の資料になっています。これはオランダ人学生のヨハネス・デ・ウイットの手になるもので、張り出した舞台奥に2本柱が立ち、屋根を支えてます。このスワン劇場がシェイクスピアの生地、ストラットフォード・アポン・エイヴォンに再現されていて、数年前にここで17世紀スペインの尼さんが書いた喜劇「欲望の館」を家内と見ました。隣に建つ大きな「ロイヤル・シェイクスピア劇場」と違って、こぢんまりした3階席のある円形劇場で、左右に2つずつ扉があり、演出ではこの扉を自由に使って、俳優たちで現れては消える花道にもなっていました。
   近くの公園には、四角の台座に円柱が載り、その上にシェイクスピアが座っている像が建ち、四周をハムレットやマクベス夫人やらの像が飾っていました。これも円形劇場を象徴しているようでした。イギリス人がギリシア・ローマの影響やらを認めたがらないのは、今日、EUに加盟しながら、ユーロを採用せず、女王陛下の肖像の載るポンド紙幣に死守するのに似ているな、と苦笑させられました。金子務記