対象書名:『グリニッジ・タイム』デレク・ハウス著、橋爪若子訳、東洋書林刊、2,940円
掲載紙:公明新聞 文化欄
年:2008.01.28

『グリニッジ・タイム-世界の時間の始点をめぐる物語』

グリニッジといったら世界標準時で知られる。ロンドン郊外のテームズ河畔にその名の天文台がある。本書はここを舞台にして、地球上の時間の始まりがどう 決められたかを、手堅くエピソードも入れて物語っていく。著者は国立海事博物館にも勤めた元海軍技術将校。目印もない外海に出て、正確に緯度経度を知る重 要性は骨身に徹しているだろう。

1884年ワシントンで開かれた第一回国際子午線会議で、すべての国家に共通するものとして、グリニッジ天文台に設置された子午儀の中心を通る子午線を 経度ゼロの原初子午線として定め、そこの午前0時をもって全世界の始まりとされた。、産業革命の進展で、鉄道の全盛期であったことに注目すべきである。天 文学者や船乗りたちを除けば、19世紀までは、地球上の住民の大方は、各地でてんでに太陽と月の出没にあわせて生活すればよかった。地球上のどこが時空の 基準でどこから時間と距離を測るかなどということとは、およそ無関係だったのだが、いまや地球は一つになり始めたのである。

本書の前半は、揺れる船の上でも狂わない、精密な時計作りの話である。なぜ正確な時間が必経度決定に要かと言えば、地球は一日24時間で一回自転するか ら、一時間に経度で15度ずつ移動する。つまりAB二地点の時差が正確にわかれば経度差が求まる。時差八時間なら経度差120度と。ホイヘンスの振り子時 計も役立たず、結局ハリソンの洋上ゼンマイ時計が凱歌を上げる。後半が本書の白眉で、郵便制度と鉄道の普及が標準時間の必要を生み出したことを綴ってい る。最大経度差が三時間半になるアメリカを始め各国でその必要が痛感された。 パリかロンドンか、原点を定める熾烈な議論が続いたが、当時、世界貿易の72パーセントの船が使用していたグリニッジが選ばれる。現代までの標準時制定の 歴史がよく纏まっていて、有益である。