鎌倉鶴岡八幡宮の敷地内にある、神奈川県立近代美術館がいよいよ今年二月で店じまいだ。日本初の公立近代美術館として、大いに気を吐いてきた。

一九六九年のパウル・クレー展、一九七二年のペーター・ブリューゲル(父)版画展など、『東京新聞』と共催で国立系の鼻をあかせる大企画で、日本中の美術フアンを虜にした。図録からも、当時の土方定一館長以下の識見と情熱が伝わってくる。クレー展は一ヶ月足らずの短い期間に六万人押し寄せた、と記録されている。私も東京からの一人で、ノーベル賞をもらったばかりの川端康成氏を喫茶室で見かけた。

源平池のうち平家池にせり出すように建つガラス張りのピロティ建築。一九五一年末オープンした。ル・コルビジェの弟子坂倉準三の設計だ。列柱が二階の展示室を支え、池面に開く蓮の花々を渡る涼風が、中庭のイサムノグチやブールデルの彫像群を包んでいく。鎌倉の誇りと思ってきた。それが消えてしまうとは。

開館一五周年で東隣りに張り出して増築された新館が、耐震問題とかで閉鎖されてもう八年。同じ県立の姉妹館、葉山館が海の見える美術館として賑々しくオープンしてもう一二年だ。建物にも寿命があり、新旧交代も世の習いなのか。

いま三期にわたる所蔵品展「鎌倉からはじまった」が鎌倉別館とともに、六五年間の別れの挨拶をしている。展示目録には、英語でAll Begun in Kamakuraとあるから、「すべてが鎌倉発」の心意気がうかがわれる。おおいに良し、である。  『鎌倉三日会会報』2015年8月号「編集後記」より