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京都と中也を結ぶNPO法人京都中也倶楽部
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ミュージカル「サラサとルルジ」上演を期待します
 詩人佐々木さんの原作、『サラサとルルジ』(鎌倉春秋社刊)を読んだのはもうだいぶ前です。しかしそのときの感動はよく覚えています。まるで「星の王子さま」に賢治が乗り移ったかのように、妙なる言葉で綴られた雄大なストーリーは、単なるファンタジーを超えたものです。そこから、原爆の無惨さを悼む美しい天使たちの歌声が響きわたり、はっきり耳に焼きついたのです。あの、爆弾は「宇宙の美しいしくみ」を破壊した、という天使たちの言葉です。

 なにしろ天使サラサは、水鏡の星・地球の生みの親、進化の目撃者で証言者ですし、そんな天使が、形ばかり似て非なる人間の「ホロビの学問」から生まれた核爆発の威力に、神通力を曇らしてしまうという設定に、私は深く心をえぐられました。いったい科学が「ヨロコビの学問」であった時代はあったのか、これからもあるのか、と。どうしたら、科学がわたしたちにとって「ヨロコビの学問」になるのだろう。これは重い問題です。

 天使サラサが地上に踏みとどまって、「宇宙の美しいしくみ」を再現する決意をするのも、そこにサラサを導いて枯れてしまった宇宙花の犠牲によるのでした。赤い大きな宇宙花は、もともと天使のクッキーなどとともに、移動天使サラサの鞄に入っていたものです。「この星はいったい、グウゼンとヒツゼンをどれだけ繰り返してきたのだろう」と、サラサは森に隠れ住むヴァイオリニストのシンイチと会話を交わします。やがて、からすうりのつやつやした朱色の実を手にして(オペラでは朝の光を浴びて美しく開花する花々に変えられています)、奇跡のようないのちの美しさが大写しになります。無数の偶然と必然に奇跡が加わって、この連鎖から、生命が生まれる、それこそ「奇跡だよーっ」という叫び声になっていきます。この「宇宙の美しいしくみ」が、核爆発によって壊されたのです。 

 原作の第2部では、地上の天使の道を選んだサラサが、天使のクッキーでなく人間の食物を摂って生きていかねばならない。冷厳な食物連鎖の世界で生きていかねばならない厳しさが克明に描かれています。この物語は、私たちの決意を込めた新たな生き方で、書き続けられていかねばならないものです。

 今回のミュージカルは第1部「水鏡の星」を中心として描かれております。中京地区でお目見えしたこの音楽劇を、ぜひ作者在住の関東地区でも上演して、多くの子供さんや大人の人々が見られるようになってほしい、と願っています。 
2007年12月
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