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「科学の本」第2回 科学の面白さ
 かつて科学一般書の五人組がいた。宇宙論のガモフ、SFのアシモフ、数学のガードナー、進化論のグールド、宇宙生物学のセイガン。頭文字をとって私はGAGGS(ギャッグズ)と呼んだ。ガモフの『トムキンスの冒険』(伏見康治他訳、白揚社)はこの手の古典である。五人組もそうだが、いま解説本で面白いのは米国の科学ライターものに多い。同協会は会員数2400人、プロの執筆団体で最大とか。英語圏という利点もあるが、それだけではない。研究生活を送って転向したものが多い。当然、重要な原著論文をみな押さえた上で、調査・インタビューし、筆力を揮う。それだけに説得力も信頼性も高い。

 たとえば『複雑な世界、単純な法則』(阪本芳久訳、草思社)の著者ブキャナンはまだ若手だが、ネットワーク科学の威力を随所に語る。共通の知人に出会って世間は狭い、と思う。エイズがあっという間に拡がる。なぜ、という疑問も「スモールワールド」のからくりのせいだ。地球人口60億のネットワークの中で、ある人とある人との繋がりをなぜ六人も辿れば(これを六次の隔たりという)見いだせるのか、ネットワーク科学の説明モデルを読むと納得できる。わが国にも優秀な記者は多いが、日本科学ジャーナリスト会議編の『科学ジャーナリズムの世界』を読むと、悩み多き日本の現状を総覧して考えさせる。

 しかし科学の面白さは、一流の科学者の自伝や講義録をじっくり読めば十分に伝わる。

 今年と来年は湯川秀樹と朝永振一郎の生誕100年である。戦後の荒廃期に湯川のノーベル賞受賞ニュースはどれだけ日本人の力になったか。その湯川の『物理講義』(講談社学術文庫)には臨場感がある。学生相手に三日間基礎から連続講義した記録で、相対論や量子論までの流れをじっくり京都弁も交えて語り、脱線が面白い。ニュートンに触れて、大学でニュートン物理学を習うとニュートンの実在感が失せてしまうが、ケインズの研究で、錬金術・神学研究の側面が出てきて、「とたんに私はものすごくニュートンの実在感と興味が出てきました」という。科学者である前に人間であるということである。その意味では、わが国の第一戦科学者たち、青色ダイオードの中村修二ら10人のインタビュー記録、有馬朗人監修『研究力』(東京図書)は、生々しい現場の雰囲気をよく伝えている。

 寺田寅彦の科学随筆路線は、戦後科学誌の一時代を築いた『自然』誌上で活躍したロゲルギスト(ロゴス[論理]+エルゴン[仕事]から造語したグループ名)の面々が引き継いだが、その一人の自選集『木下是雄集』全三巻(晶文社)に浸るのもよい。第一集の「道順の示し方、おぼえ方」は、第三集にあるロングセラー『理科系の作文技術』とともに、単なる技法でなく、日本人の思考法や風土の違い、日本語の無定型などに反省を迫る優れた文明批評になっている。第二集の「山ひとスキー」のものなど、いかにも東大旅行部OBの行動派らしく野外からの素材も多く、物理的思考も十分楽しめるエッセイ集である。
『東京/中日新聞』2006年4月16日掲載
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